[ダニエルズ理論]E・M・T・I・Rの5つのペースとは?

Eペース・Mペース・Tペース・Iペース・Rペースという言葉は一般的によく用いられるようになりましたが、これはジャック・ダニエルズ博士のダニエルズ理論で定義されているものです。

ここではそれぞれのペースがどの程度のレベルなのか、またどのくらいの頻度でどう練習に取り込んでいければいいかという点について自分なりの解釈を加えて説明いたします。

まずはそれぞれのペースが何を意味するかという点をまとめると以下の通りです。

ダニエルズ理論のペース

Eペース:イージーランニング
Mペース:マラソンペース
Tペース:閾値ランニング
Iペース:インターバル
Rペース:レペティション

具体的なペースについては後述いたしますが、それぞれのペースがどのくらいになるかを調べるには以下の2種類のアプローチ方法があります。

ダニエルズ理論のペース算出方法

・最大心拍数から推定する
・VDOTから推定する

一つ目の最大心拍数からアプローチする方法については「[練習メニューの組み立て方]速度でなく強度で考える方法とは?」の記事で説明しています。

ここではVDOTを使った方法を説明いたします。

VDOTとは

読み方は「ブイドット」です。

VDOTとは、ダニエルズ理論を語る上ではずせない考え方で、簡単に言うとVO2MAX・AT・ランニングエコノミーの3つの指標を総合したものです。

この3つの指標は走力を決定づける3大要素と言われているもので、この3つを総合したものを基準にするということは、実際のレースの結果を基にしているとも言い換えられます。

自分のVDOTの調べ方については「VDOT Running caluculator」というアプリがおすすめです。

具体的にサブスリーレベルのVDOTは「53.5」となりますが、これを他の距離に当てはまると以下の通りです。

VDOT53.5

フル:2:59:59(4:15/km)
ハーフ:1:26:17(4:05/km)
10km:38:59(3:53/km)
5km:18:48(3:45/km)
1,500m:5:05(3:23/km)

同様にサブ3:30だとVDOT44.6でこのようになります。

VDOT44.6

フル:3:29:59(4:58/km)
ハーフ:1:41:10(4:47/km)
10km:45:38(4:33/km)
5km:22:00(4:24/km)
1,500m:5:59(3:59/km)

5kmや10kmやハーフでこれらの記録を上回っていれば、それぞれサブ3・サブ3.5を達成する資格があると思って良いでしょう。

しかし、スピード型かスタミナ型かで距離に応じてVDOTの値は異なってくると思います。

それぞれの距離を走ったことのある人は、それぞれの距離のVDOTを算出した上で、最も高い値を参考にしてください。

その数値からE・M・T・I・Rのペースを算出します。


Eペース

EペースのEはイージーのEで、普段のジョグのペースです。

疲労抜きやポイント練習前後のアップとダウンも含めてこのペースが基本となります。

しかし、VDOTで算出されるEペースは意外とイージーではありません。

少なくともLSDをするには速すぎるペースです。

そのため、自分のEペースはどのくらいなのか認識した上で、Eペースで走るジョグと、もっとペースの遅いジョグを使いわけた方が良いです。

なお、Eペースで走ることで得られるメリットは以下の2つです。

Eペースで得られるメリット

・ケガに対する耐性をつくる
・血液循環を良くする

まずはケガに対する耐性を作れることです。

器を大きくする効果と言い換えても良いかと思います。

低負荷のため、この練習でケガをする確率も低く、ケガをしづらい身体作りにもなります。

また、血液循環をよくするメリットもあります。

それほど負荷の高くない練習の方が毛細血管を発達させるのに有効です。

また、完全休養するより軽めに走った方が血液循環が良くなるため、疲労回復効果が見込めます。

Eペースの練習例は以下の通りです。

Eペースのトレーニング例

・10kmジョグ
・ウォーミングアップ
・クーリングダウン

疲労抜きやつなぎの10kmジョグ、ポイント練習前後のウォーミングアップ・クーリングダウンが主な練習です。

Mペース

MペースのMはマラソンのMで、フルマラソンを走るペースです。

Mペースで走ることで得られるメリットは以下の2つです。

Mペースで得られるメリット

・実際のレースペースに慣れる
・糖を節約し脂肪を使うことを身体に覚えさせる

Mペースで走ることで、実際にマラソンで走るレースペースに慣れるという効果があります。

Eペースより速いペースを長時間維持するため、自信になるというメンタル的な効果も考えられます。

また、糖を節約して脂肪を使うことを身体に覚えさせることで、持久力の向上が見込めます。

Mペースの練習例は以下の通りです。

Mペースのトレーニング例

・10kmペース走
・20kmペース走

フルマラソン練習のペース走と言えば30kmを思い浮かべる人も多いと思いますが、ダニエルズ理論ではMペースで一度に走る際の上限を29kmとしています。

30km走はフルマラソンを走る前の儀式のようなものですが、ダニエルズ理論によるとMペースでの30km走はやり過ぎということです。

しかし、Mペースで走る目的のひとつにも挙げた、実際のレースペースに慣れて自信を持つ点においては行う意味のある練習と言えます。

なお、私は30kmペース走をする際はEペースで実施し、Mペースで走るのは10〜20kmがメインです。

Tペース

TペースのTはthresholdの略で、日本語にすると閾値(いきち・しきいち)です。

日本語にしても非常に難しい言葉ですが、境目とか境界線という意味と思ってください。

何の境界線かというと、無酸素と有酸素の境界線です。

ペースが速いと酸素の供給が間に合わないため、無酸素でエネルギーを作り出さなければなりません。

しかし、無酸素で動ける時間は短いため、できるだけ有酸素でエネルギーを作りだすことが長距離を走る上では重要です。

Tペースは具体的には20〜30分続けて走れるペースです。

きちんとピーキングして臨んだレースなら60分程度走り続けられるペースとも言われています。

Tペースで走ることで得られるメリットは以下に尽きます。

Tペースで得られるメリット

・乳酸再利用能力の向上

Tペース走は、しばしばATペース走とかLTペース走とも言われます。

Aはanaerobic(無酸素性)、Lはlactate(乳酸性)の略で、このことからTペースとは無酸素と乳酸に関する境界線のペースであることはなんとなくわかるかと思います。

つまり、Tペースで走ることによって乳酸を発生させながらも酸素を取り込みながら、発生させた乳酸を再利用するのです。

酸素と乳酸の関係性についてはこちらの記事で説明してますので、より詳しく知りたい方は参照してください。

ペースが遅すぎると乳酸の発生が遅く、速すぎると再利用できないほどの乳酸が発生してしまうため、このペースを見極めるのが重要なのです。

このトレーニングをすることによって乳酸を再利用する能力の向上につながるわけですが、それはつまりTペースの底上げです。

Tペースのトレーニング例は、ダニエルズ理論によると以下の2種類です。

Tペースのトレーニング例

・テンポ走
・クルーズインターバル

テンポ走もクルーズインターバルも聞き馴染みのない人が多いかと思います。

わかりやすく言い換えると、ペース走とロングインターバルです。

ペース走と言ってもMペースのペース走と異なり、練習では20〜30分が限界くらいのペースのため、距離にすると5〜8kmくらいが適正値です。

インターバルの場合は2km×5とか3km×3などが良いでしょう。

ペースはテンポ走と同じとし、インターバルだからといって速めないことがポイントです。

また、疾走時間と休息時間は5:1になることが推奨されています。

Iペース

IペースのIはインターバルのIで、このペースで走るのは3〜5分間が適正とされます。

Iペースで走ることで得られるメリットは以下の2つです。

Iペースで得られるメリット

・VO2MAXの向上
・心肺機能の向上

VO2MAXは最大酸素摂取量のことですが、これを上げるのに最も有効な練習がインターバルです。

VO2MAXについて詳しくは「VO2MAX(最大酸素摂取量)とは?」を参照してください。

また、インターバルは心拍数の大幅な上下動を繰り返すため、心肺機能が鍛えられます。

Iペースのトレーニング例

・1,000m×5インターバル
・400m×10インターバル

1,000mのインターバルはインターバル練習の王道ですが、この適性時間に当てはまる最適な練習だと言えます。

400mのインターバルは疾走時間が適正値の3分を切ってしまいますが、レスト時間を疾走時間より短くすることで同等の効果があるとされています。

Rペース

RペースのRはレペティションのRです。

しかし、一般的によく使われるレペティションの意味とダニエルズ理論のレペティションは少し違っていて、ダニエルズ理論では2分間を超えないことが目安とされています。

つまり、それくらい速いペースであり、無酸素運動となるペースです。

3,000m・2,000m・1,000mのレペとか1,500m3本のレペなどと言われる練習も聞くことがありますが、ダニエルズ理論からすると、それはレペのペースとは言えません。

ほとんどの人の場合、600m以下の距離が対象となるでしょう。

Rペースで走ることで得られるメリットは以下の2つです。

Rペースで得られるメリット

・絶対的スピードの向上
・乳酸耐性の向上

非常に速いスピードで走ることで、絶対的なスピードの向上がまず見込めます。

また、無酸素運動となるため、たくさんの乳酸が発生します。

発生させた乳酸は再利用する時間がないため、発生させた状態のまま走ることにより乳酸耐性ができ、たくさんの乳酸を発生させるポイントを遅らせることができるようになります。

Rペースのトレーニング例

400m×5
300m×10

必然的にこのくらいの距離になります。

休息は疾走時間の2〜3倍の時間をとるか疾走区間と同距離のジョグが推奨されています。

E・M・T・I・Rペースのトレーニング強度

前述しましたが、自分のVDOTの調べ方については「VDOT Running caluculator」というアプリがおすすめです。

自分のVDOTの数値がわかったら、それぞれのペースのトレーニング強度がどれくらいになるかもアプリでわかります。

例として挙げたサブスリーレベルのVDOT53.5、サブ3:30レベルのVDOT44.6のトレーニング強度は以下の通りです。

サブスリーレベル(VDOT53.5)の練習強度

Eペース:4:50〜5:20/km
Mペース:4:16/km
Tペース:4:01/km
Iペース:3:42/km
Rペース:1:22/400m

サブ3.5レベル(VDOT44.6)の練習強度

Eペース:5:36〜6:10/km
Mペース:4:58/km
Tペース:4:40/km
Iペース:4:18/km
Rペース:1:37/400m

T・I・Rのペースが遅いのでは?と感じる方も多いと思います。

その方はスピード型です。

このVDOTはフルマラソンから算出したものですが、ハーフや10km、5km、1,500mなど他の距離でも算出することができます。

その場合は一番高い数値を自分のVDOTの数値としてください。

そうすることで練習強度の調節ができ、また自分の弱いところがわかると思います。

E・M・T・I・Rペースのトレーニング頻度

自分のE・M・T・I・Rペースがわかったら、どの程度のメニューをどういう頻度で入れていくかと悩む人も多いと思います。

これはダニエルズ博士によると次の通りです。

週間走行距離に対する割合

Eペース:25〜30%
Mペース:10〜20%
Tペース:10%
Iペース:8%か10kmの短い方
Rペース:5%か8kmの短い方

全部足しても100%にならないので独自の解釈を加えますが、Eペースはもっと割合が高くても良いのではないかと思います。

反対にIペースとRペースをこの割合で行うのは難易度が高いです。

そのため、E・M・Tの割合を意識しつつ、IかRは週によってどちらかを入れていく程度がおすすめです。

トレーニング内容は、レースまでどのくらいの期間があるかにもよりますが、例えば以下のような感じです。

週間トレーニング例

月:5kmジョグ(Eペース)
火:10kmジョグ(Eペース)
水:3,000m×3(Tペース)+アップ&ダウン5km(Eペース)
木:5kmジョグ(Eペース)
金:10kmジョグ(Eペース)
土:1,000m×5(Iペース)+アップ&ダウン5km(Eペース)
日:400m×3(Rペース)+10km(Mペース)+アップ&ダウン5km(Eペース)

この通りにメニューをこなすと、ペースごとの週間走行距離は以下の通りです。

週間走行距離(約70km)

Eペース:45km(64%)
Mペース:10km(14%)
Tペース:9km(13%)
Iペース:5km(7%)
Rペース:1.2km(2%)

Eペースはアップやダウンも含むため、走る基本のペースです。

割合はかなり大きくなりますが、このくらいあって良いと思います。

また、毎日走る前提でトレーニング例を作りましたが、Eペースの5kmジョグまたは10kmジョグは完全休養に変えても良いかと思います。

まとめ

ダニエルズ理論におけるE・M・T・I・Rのペースについて説明しましたが、もちろんこれが絶対的に正しいというわけではありません。

いろいろな考え方がありますが、有名な運動生理学者でもあるジャック・ダニエルズ博士の理論を学ぶことだけでもマイナスにはならないと思います。

興味のある方はこちらの本も読んでみてください。

また、ここではVDOTからペースを算出する方法を基準にしましたが、最大心拍数からアプローチする方法もあります。

そちらは「[練習メニューの組み立て方]速度でなく強度で考える方法とは?」の記事を参照してください。