
ナイキのミッドソール「ファイロン」「クシュロン」「ルナロン」「リアクト」「ズームX」について、それぞれの特徴とそのミッドソールを持つズームランニングシューズをまとめてみました。
感触や他のミッドソールとの比較についてはナイキの公式のものではなく、あくまでも私個人のものですので予めご承知の上、お読みください。
はじめに
ランニングシューズにはインソールとアウトソールの間に、クッションとなるミッドソールが存在します。
今ではその存在はごく当たり前のことであり、その重要性は多くのランナーはわかっていることですが、一昔前まではミッドソールという概念すらありませんでした。
ナイキでは、ヴェイパーフライに使われる素材である「ズームX」が注目を集めており、現在のところ最上級のミッドソールのクッション素材だと思いますが、ここに至るまでの進化の歴史とそれぞれの特徴をお伝えいたします。
ファイロン
ミッドソールが搭載され始めた1970年代の初期の頃は、ラバースポンジをその素材に使用するのが一般的でしたが、ほどなくしてEVAとポリウレタンという2種類の合成樹脂が台頭します。
EVAはエチレンビニールアセテートの略で、軽量なのが特徴です。
ポリウレタンはEVAより重くはなりますが、よりクッション性と耐久性に優れた素材です。
登場以来、高機能なランニングシューズにはこれらの素材が使われることになりましたが、レースに使われるような軽量タイプのシューズにも使われるようになったのがEVAです。
そのEVAの1種で、現在もなおレーシングシューズに使われている優秀な素材がファイロンです。
ファイロンをミッドソールに持つのは、現行モデルではズームスピードレーサー6やズームストリーク7などの超軽量レーシングシューズや、ズームグラビティなどの安価な練習用シューズと様々です。
なぜ今もこの素材が使われているのかは、後に説明する後発の素材よりも安価であることと、それらにひけをとらない反発性と軽量さを持っているからと思われます。
クシュロン
次に登場したのがクシュロンです。
これはファイロンの進化版であり、素材もファイロンに近いようですが、ファイロンより軽量で弾力性があり、耐久性が高いのが特徴です。
私の感想としては、とにかく柔らかいというイメージです。
ファイロンと比べて柔らかいのはもちろんですが、後に開発されるルナロンや現在でも主流のリアクトと比べても柔らかいと思います。
さらにクシュロンにはクシュロンSTとクシュロンLTという種類があります。
STはソフトの略でLTはライトの略と思われ、より柔らかいSTと、より軽いLTの2種類です。
クシュロンSTが使われているナイキのズームランニングシューズは、現行モデルではズームペガサス36で、とにかくクシュロンの柔らかさがよくわかるシューズです。
※2020年4月28日に発売されたペガサス37のミッドソールはリアクトに変更されました。
また、ズームストラクチャー22にもクシュロンSTは使われていますが、こちらはクシュロンとファイロンの2種類のミッドソールが使われています。
そのため分厚いクッションが売りの初心者向けシューズですが、柔らかさで言えばクシュロンST単独のミッドソールを持つペガサス36の方が上です。
一方でクシュロンLTが使われている現行モデルは、ナイキズームランニングシューズ最軽量のズームストリークLT4や、ズームエリート10・ズームライバルフライ2などといったレーシングモデルです。
ズームストリークLT4は軽量さを追求したために必然的にクシュロンLTになったと思います。
ズームエリート10が薄底の割にクッションがあると感じるのはクシュロンのおかげです。
また、ズームライバルフライ2が厚底でクッション性が高いのに軽量であるのもクシュロンLTのおかげと言えます。
ルナロン
21世紀になってさらに進化したクッショニングシステムがルナロンです。
これは硬くて反発性のあるファイロンの中に柔らかいクシュロンを挟んだ技術です。
ルナロンはバスケシューズやゴルフシューズにも採用され、ランニングシューズとしてもルナグライドやルナスパイダーなど、これまでのズームシリーズとは別のルナシリーズが発売されます。
ところが今となっては後発のリアクトフォームが開発されたこともあってルナロンは淘汰されようとしています。
ルナロンクッション自体はルナシリーズだけでなくズームシリーズなどにも提供されていました。
ズームボメロ13や初代ズームフライなどがルナロンでしたが、どちらも後継シューズ(ズームボメロ14・ズームフライ フライニット)にはリアクトが採用されています。
このことから、ルナロンよりリアクトの方が性能的に上という印象を受けます。
実際に履いた感触としても反発性のファイロンと弾力性のクシュロンと比べて、どっちつかずの印象です。
以前からあったファイロンやクシュロンが今も使われているのに対して、後発のルナロンが使われなくなっているのはそのためでしょう。
リアクト
ファイロン・クシュロン・ルナロンがEVAなのに対し、ポリウレタン系のミッドソールとして新しく誕生したのがリアクトです。
ファイロンの章でも書きましたが、ポリウレタンはEVAより重いものの、クッション性と耐久性に優れています。
それ故にこれまでシリアスランナー向けシューズにはEVAが一般的でしたが、リアクトは他のポリウレタン系素材と比べると反発性が強いのが特徴です。
また、耐久性があるため、長く使っても反発やクッションが落ちづらいのが長所です。
ただ、EVAのファイロン・クシュロンと比較すると、重さはリアクトの方があり、反発はなく耐久性は上、クッションはファイロンよりあってクシュロンよりないというのが私の印象です。
リアクトはエピックリアクトやオデッセイリアクトなどリアクトシリーズ化され、逆に前述のルナシリーズが淘汰されました。
その他にも、ズームボメロ14やズームフライ3などのズームランニングシューズにもリアクトは使われています。
オデッセイリアクトやエピックリアクトを履いた感触としては、どちらもクッションが勝ってしまい、反発をあまり感じませんでした。
ところが、ズームボメロ14はズームエアも搭載されているため、反発力もあるシューズです。重さはあってレース向きではないですが、ジョグ用にはおすすめです。
レースにも使えるリアクトソールのシューズといえばズームフライ3です。
ズームフライは初代がルナロンソールで、2代目のズームフライ フライニットからリアクトソールになりました。
ズームフライ フライニットとズームフライ3は反発力の強いシューズですが、これはリアクトの力ではなく、リアクトソールに挟んだカーボンファイバープレートの力です。
ズームフライ フライニットとズームヴェイパーフライ4%はシルエットは同じですが、耐久性は全く違います。
ズームヴェイパーフライ4%が160kmの寿命と言われているのは、カーボンファイバープレートがヘタってしまうためですが、同じプレートが入ったズームフライ フライニットは600km以上の寿命があります。
これは後述するズームXのミッドソールであるヴェイパーフライ4%に対し、ズームフライ フライニットはリアクトソールだからです。
カーボンファイバープレート+リアクトソールの組み合わせは、次代のズームフライ3にも受け継がれて多くのランナーに支持されているシューズです。
リアクト単体では耐久性やクッション性はあっても反発性が足りませんでしたが、カーボンファイバープレートと組み合わせることで反発性を上げるだけでなく、プレートの耐久性のなさを補うという意味で最高に相性の良い組み合わせと言えるでしょう。
最後にクシュロンSTからリアクトにミッドソールが変更されたのがズームペガサス最新版の37です。
ミッドソールの厚さも前足部・後足部とも前作より2ミリ増しています。
ズームフライ3と違ってカーボンプレートは入っていませんが、前足部に搭載されたズームエア(前作比で倍増)によって反発力を生み出せるシューズです。
後足部にはズームエアが入っていない分、リアクト特有のぐにゃぐにゃした柔らかいクッション性が感じられます。
重さもあるので中上級者にはレース向きではありませんが、初心者にはオールインワンシューズとも言えるでしょう。
ズームX
ズームXは航空宇宙産業で使う新素材で、軽量でクッション性が高く、それでいて反発性も強いというナイキ最高のミッドソールです。
使われているのはエアズームアルファフライネクスト%・ズームXヴェイパーフライネクスト%・ズームペガサスターボ2・ズームテンポネクスト%(リアクト併用)です。
ヴェイパーフライは厚底でクッション性が非常に高く、それでいて反発性の高いシューズです。
しかし、この反発性の高さはカーボンファイバープレートによるものとも言えます。
そのため、ズームXの特徴がよくわかるのはズームペガサスターボ2の方です。
ペガサスターボ2は前作のペガサスターボもそうでしたが、カーボンファイバープレートは入ってなくてズームXがミッドソールに使われているシューズです。
こちらは反発よりも圧倒的にクッション性を感じます。とにかく柔らかいのです。
前述したクシュロンST以上の柔らかさです。
それでいて軽量で反発性もあるというのですから最高の素材です。
また、耐久性が低いと説明されているサイトもありますが、それは違います。
カーボンプレートにズームXのヴェイパーフライ4%フライニットと、カーボンプレートにリアクトのズームフライ フライニットが発売された時、その寿命の違い(160kmと600km以上)はミッドソールのズームXとリアクトの寿命の違いだろうと私も思っていました。
ところが、それではズームXを搭載し、800kmの寿命があると言われるペガサスターボの説明がつきません。
実際にヴェイパーフライ4%フライニットを160km以上履いてみましたが、かなりのクッション性と反発性を感じます。
つまり、最大限の機能性発揮は160kmかもしれませんが、それ以上履いても他のシューズよりクッションも反発も優位性があるくらいに思います。
実際に私は500km以上履きましたが、なくなるのはクッション性より反発性です。
それもズームXの反発性ではなく、カーボンファイバープレートの反発性だと推察されます。
このプレートは耐久性の高いリアクトに守られる形で寿命が延びるズームフライ フライニット・ズームフライ3に対し、ズームXの沈み込みによりプレートの力を最大限に発揮する分、寿命が短くなるのがヴェイパーフライなのです。
カーボンは、リアクトなら耐久性を増し、ズームXなら効果を最大限に発揮できるという意味でどちらとも相性の良いプレートだと言えます。
ちなみに履き込んだヴェイパーフライ4%は、ズームXのクッションだけは残るため、ジョグ用にはとても良いシューズになります。
詳しくは「寿命の終わったヴェイパーフライ4%レビュー!」の記事をご覧ください。
まとめ
以上、5種類のミッドソールについて書きましたが、反発性・クッション性・軽さ・耐久性を比較してみると私の感覚では以下の通りです。(クシュロンはSTとLTに分けて6種類の比較とします)
反発性 | クッション性 | 軽さ | 耐久性 | |
1 | ズームX | ズームX | ズームX | リアクト |
2 | ファイロン | クシュロンST | クシュロンLT | ズームX |
3 | リアクト | クシュロンST | クシュロンST | クシュロンST |
4 | ルナロン | リアクト | ルナロン | クシュロンST |
5 | クシュロンLT | ルナロン | ファイロン | ルナロン |
6 | クシュロンST | ファイロン | リアクト | ファイロン |
ただし、これはあくまでも私の感覚です。ミッドソール自体の厚さやズームエア・プレートの有無などにもよりますので、あくまでも参考程度にしてもらえればと思います。
なお、ズームエアについては「ナイキズームエアとは?搭載されたズームランニングシューズ一覧」の記事でまとめております。
さらにそれぞれのシューズについてのレビューは「ナイキズームランニングシューズ徹底レビュー!最新モデルを随時更新」の記事でまとめてますので、よろしければご覧ください。